カウンセリングで一番、大切なこと

カウンセリングで一番、大切なこと

こんにちは。カウンセラーの中越です。

今回は、僕流のカウンセリングのはじめ方をお伝えします。



カウンセリングをはじめるには、まずはシュークリームを食べます。できれば生クリームとカスタードのダブルクリームがオススメです。

お腹が減りすぎていてはダメだし、お腹がいっぱいになりすぎてもいけません。なので、シュークリームがちょうどいいのです。

食べたあとは眠くなるので、15分~20分くらい昼寝します。ちゃんとスマホでタイマーをかけておかないと、寝過ごしたらどうしようと不安になって寝られませんので、タイマーをセットしましょう。

次に、マインドネスフルとか瞑想とかいうほどではないのですが、数分間、静かに目をつぶってゆっくり深呼吸を繰り返します。

なんとなく体の中にきれいな空気が入ってきて、日常の雑多な出来事で体の中にたまった黒い液体のようなものが、霧状になって口から吐き出されて行く気がします。

するとなんだか、頭がすっきりすると同時に、ささくれだった心に保湿クリームを塗ったような、体の内面がメンテナンスをされた気分になるのです。

大げさだと思うかもしれませんが、うちのカウンセリングルームは空気清浄機をつけているので、空気がきれいなのは本当です。


それから、いまから来る相談者さんの申込時のメールを印刷したり、過去に相談に来てくれている方の場合は、記録を見直したりします。

大抵、カウンセリング開始の5~10分前にそれらの準備が終わるので、回転椅子をくるくるさせながら足をぶらぶらしたり、相談者さんを最高の笑顔で出迎えられるように、「パッチリ二重にな~れっ!」と鏡の前で目を大きくする練習をして時間をつぶします。


ああ、あとトイレに行くのは絶対に忘れないように。

僕は何度か我慢できなくなって、カウンセリング中にトイレにいった経験がありますが、やっぱりなんとなく気恥ずかしいものです。

でも、僕がトイレに行くと相談者さんの方も、「すみません。私もトイレに行っていいですか」とおっしゃっることがちょくちょくあります。

「なんだ。自分だけ我慢してたんじゃないんだ」と思って、なんだかお互いに仲良くなれた気分になるので、トイレに行くのも悪いことばかりじゃないかもしれません。



そんなことなので僕の場合、カウンセリングの準備だけで1時間くらいかかることがあります。

そしてこれは、僕がカウンセラーになった15年ほど前からずっと続いていることです。


「そこまで時間をかけなきゃいけないの?あまりに非効率なんじゃない?」。そう思う人もいるかもしれません。

実際そのとおりで、そんなに準備にばかり時間をかけているから、僕は1日に3~4件しかカウンセリングをしていません。

これは経営という面から考えると、あきらかに間違っていると思います。5分くらいで準備を済ませ、1日に5~6件カウンセリングをした方がずっとカウンセリングルームの経営は健全になります。

なにより、予約が取れなくて困る相談者さんも減るのですから、相談者さんにとっても大きなメリットです。



ただ、まだ若くてカウンセリングが上手くいかなかったときに、落ち込んだり自分を責めたくなる気持ちをどうしたらいいのかわからず、悩んだことがありました。

そのときに、「せめて準備だけでもしっかりしよう」と思ってはじめたことが、いまでも続いているのです。ある意味、すこし神経症的かもしれません。


それに僕自身、絶対に毎回ここまでの準備をするわけではありません。ぱっと申込時の内容や過去の記録に目を通すだけのときもあります。

それで特にカウンセリングに支障が出ることはないので、本当はここまで準備をする必要なんてないのでしょう。

なので、他のカウンセラーにこのカウンセリングのはじめ方をおすすめしようとは思いません。いや、むしろ真似しない方がいいと思います。


それでも、このカウンセリングのはじめ方をしていてよかったなと思うことがあります。


それは、十数年以上昔、まだまだ自分が未熟なカウンセラーだった頃の相談者さんから、急に報告のメールをもらえたときです。

なにしろ十数年以上も昔のことですから、いまの自分と比べると、僕はあきらかに未熟で、技術も経験も知識もありませんでした。


自分でいうことではないのですが、さすがに15年もやっていると、まだまだ足りないところもあるけども、昔よりはずいぶんと知識も経験も技術も身についたと思っています。


「昔に比べたら、いまの僕の方が、ずっと相談者さんが満足するカウンセリングをできている」。

自分ではそう思っています。というか、15年もやっていて何も成長がなかったら、そっちの方が問題です。



ところが、十数年前の相談者さんからもらった報告メールを読んでいると、不思議なことに気がつくのです。


それは、「あんなにも未熟なカウンセラーだった割に、よく十数年も昔の相談者さんから、報告メールを送ってもらえるよな~」ということです。

十数年も年前の相談者さんから、わざわざ報告メールをもらえるというのは、そのときのカウンセリングが本当に深く良い経験をしたと、相談者さんに感じてもらえたからでしょう。


自分が相談者の側だったとして、十数年も昔に2~3回話をしただけのカウンセラーに、わざわざ報告メールなんて送るでしょうか。よほどのインパクトのあるカウンセリング体験でないと、メールなんて送らないはずです。


未熟なカウンセラーのはずなのに、結果として、相談者さんにとって良いカウンセリング体験をしてもらえた。

なんだか、過去の自分をほめているようで気持ち悪いのですが、これは過去の自分をほめるために書いているのではありません。


これは15年、カウンセリングをしてきた僕にとって、なんとも不思議な感覚なのです。


ここにある不思議な感覚に、カウンセリングにとって一番大事なことが、隠されていると思うのです。



さて、この不思議な感覚、どう表現すればいいのでしょう。

「あんなに未熟なカウンセリングだった割に、なんでこんなに感謝してくれてるんだろう?」という感覚…。


う~ん。取り繕った言葉では、上手く表現できません。


思い切って僕の脳みその中の言葉のまま表現すると、「当時の僕のレベルの低さを考えると、ホームラン率が高すぎる」。


そういう感じがどうしてもするのです。


いまの僕は昔に比べて、知識も経験も技術も身についた分、そつなくカウンセリングをこなし、ヒットを打てるようになりました。

でも、それはまんべんなくヒットを打てるようになっただけのこと。


「十数年たっても忘れられず、感謝や報告のメールを送ってくれる」。そんなカウンセリングのホームラン率は、今も昔もあまり変わってないと感じるのです。

(あんなにいっぱい勉強したのに、それはそれで悔しい気持もあります)


長年、ずっとこのことが不思議でした。


というのも、そうなるとカウンセリングでホームランを打つには、技術でも経験でも知識でもない「何か」が、大きく関係していることになります。

それを考えたときに僕に思い浮かぶものは、「丁寧さ」しかありませんでした。

そして、その丁寧さはどこから来るのかというと、事前に自分のコンディションを整えるという、準備から来ているのです。



見透かされているのは相談者さんでなく、カウンセラーの方



世間一般では、まるでカウンセラーの方が相談者さんの心を見透かしたり、冷静に分析して判断しているように思われがちです。


でも、実際には相談者さん側の方が、ずっと精度の高い心のセンサーで、カウンセラーの反応を見ているのです。


たとえば、「カウンセリングを受けようかな…」と決意したとき、相談者さんは心の中で、どのようなことを考えるでしょうか?


「誰にも言ったことがない、子供の頃に辛かった経験を話さなくちゃいけないのかな…」

「過去に自分が犯した過ちが、いまの家庭不和の原因かもしれない…」

「私の心って、何か問題があるのかな…。だとしたら、あのことが関係しているのかもしれない。でも、あんな話、どこまで正直に話せばいいんだろう…」


多くの場合、そんなふうに不安でいっぱいの気持ちで、相談者さんは来られます。


本当に深く悩んでいるときに、自分の人生や内面について語る。

それは自分の心の皮膚をはぎ取って、普段は絶対に人から見えないような内蔵をさらけ出しているのと同じです。

風が吹いただけでも反応してしまうような、とても敏感な部分をさらけ出しているのです。


そのときの相談者さんは、カウンセラーがどんな反応をするのか、恐ろしいほどの繊細さで察知しています。

ほんの1ミリ否定的な反応をすれば、悩みの根幹に関わる非常に重要なことを、相談者さんは話してくれなくなります。


それこそ、「いまの話をした瞬間、カウンセラーの口角が1ミリほど左上に動いた」。

そんな微細な反応を、なにも見ていないふりをしながら、視界の端でしっかりと捉えている。それがカウンセリング中の相談者さんです。

これは電話カウンセリングでも同じで、こちらの息づかい、会話の間、声のテンションまで、非常に繊細に捉えられています。


僕自身、自分がカウンセラーをしているときよりも、自分自身が相談者としてカウンセリングを受けたときの方が、極限まで高まった集中力と注意深さで、カウンセラーの反応を観察しています。


本当に誰にもいえないような悩みを相談しているとき、相談者さんは非常に高度な精密さで、カウンセラーのことを観察しているのです。


家族の闇、過去に受けたいじめ、虐待、性的暴力、自らの犯した罪。

いまの悩みの根底には、そういうことが関わっているかもしれない。


そうなると、そのことをカウンセラーに話さなければいけない。

それはいままで死んでも話したくないと思って、誰にも秘密にしてきたこと。


いや、自分自身の心の中の会話でさえ、そのことを思い出さないように、念入りに避けてきた記憶。

とうとうそれを話さなければいけないかもしれない。


そんなことを話すのですから、話し相手のカウンセラーがどのような反応をするのか、命がけの集中力で観察して当然なのでしょう。

このことは自分自身が本当に深く悩み苦悩していることを、実際にカウンセラーに相談したことがあるならば、きっとわかるはずです。

(そういう意味で、カウンセラーがカウンセリングを受けることは、カウンセラーとして成長するために必要なことだと僕は思います。みんなカウンセリングを受けてみよう
!)


そんな相談者さんが相手なわけですから、カウンセラー側にも非常に高度な集中力が求められます。

相談者さんがどのようなことを話しても、必要以上に驚いたりせず、否定的な判断もせず、無理にポジティブにふるまわないように、リアルタイムで自分の心を観察し、調整する。

そうやって、なるべく安心して話しやすい雰囲気を作り続けるのは、大量のエネルギーを消費します。

相談内容によっては、冬でも汗でびっしょりになることがあります。それはものすごく糖分を使うので、シュークリームを先に食べておいた方がいいのです。

疲れていると、そんなことはとてもできないので、少し昼寝をしておいた方がいいのです。

自分の心が濁っていては、相談者さんの話を聴きながら自分自身の心の観察や調整などとても無理なので、深呼吸をして心の濁りをはき出しておいた方がいいのです。


こういうことは、初回のカウンセリングで特に注意すべきことですが、初回以降も注意し続けなければいけません。


たいていの場合、相談者さんがこちらを本当に信用してくれて、人に言えなかった心の内を話してくれるのは、何度もカウンセリングを重ねたあとだからです。


「あのことを話すべきかどうか…」。

カウンセラーは常に、相談者さんから見定められているのです。



実際に、カウンセリングを受ける相談者さんの気持ちを考えると、どうでしょう。

「本やネットでしっかり調べたから、カウンセラーとの相性もあるのもわかってる。

カウンセラーにまかせっぱなしじゃなくて、自分で考えて自分で決めようとしないと、なにも変わらない。それも十分わかっている。

私の悩みより、もっと深い悩みを抱えている人がいることも、十分にわかっている。


でも、私にとっては、本当に話すことが怖い内容なの。

あまりにも辛くて、誰にもいえなかったことを話すの。

自分が情けなくて、誰にも知られたくなかった話なの。


お願いだからその時ばかりは、せめて最大限の慎重さで私のことを扱って!

この人なら絶対に丁寧に扱ってくれるって、この人なら絶対に安心できるって、そう思える瞬間までは、一番心の奥にあることなんて話したくても話せないの!!!」


相談者さんがそういう気持ちでカウンセリングに臨んでいることを、カウンセラーはしっかりと理解しなければいけません。


だから、カウンセラーが相談者さんの話を聴くとき、できるかぎり丁寧でなければいけません。


それは、刀鍛冶が熱して赤くなった鉄を叩くときのように、彫刻家が作品に最後の一彫りを入れるときのように、研ぎ澄まされた集中力と瞬間的な判断力を必要とします。


だからこそ、カウンセリングがはじまる前に、しっかりと準備をする必要があるのです。


どれだけ経験があり、知識も豊富で、技術が優れていようとも、その日の集中力だけは、しっかりと準備をして自分の内面をメンテナンスしなければ、どうしようもありません。


疲れがたまっているときや、なんとなくコンディションが悪いとき、人間はどうしても集中力を欠き、丁寧な対応ができなくなります。

オリンピックの金メダリストや、ワールドカップに出るサッカー選手でさえ、その日のコンティションに左右されるのです。


僕たちカウンセラーだって、コンディションが良くないときは、集中力に欠けて、丁寧さがなくなって当然です。

そして、それはどうしても、相談者さんに伝わってしまいます。

なにしろ相談者さん側からすれば、誰にも見せたことのない心の内面を、生まれて初めて見せようとしているのですから。

どれだけ表面的に取り繕っても、相談者さんには見抜かれてしまいます。


「なんだか今日のカウンセラーさん、忙しかったのかパッパと終わらせようとしていたな…」

ほんの少しでもそう感じさせてしまえば、信頼を取り戻すのは容易なことではありません。



だからこそ、なるべく毎回、丁寧なカウンセリングをできるように、自分の内面を掃除しておく必要があります。



とはいえ、日常的にこのような準備をすることは、本当に大変なことです。

偉そうにこんなことを書いている僕も、毎回、それだけの準備ができるわけではありません。いや、正直に書くと、前々できていないかもしれません。

いまになって思うと、15年前の方が、このような準備をしっかりしていたと思います。

だから、15年たっても、たいしてホームラン率が上がっていないのです。


ただ、日常的にカウンセリングをするようになると、毎回、このような準備をするのは、時間的にも精神的にもまず不可能なことです。

それだけの準備やカウンセリングの質を毎回要求されると、カウンセラーはあっという間に燃え尽きてしまいます。

一生懸命なのはいいことですが、ほどほどにしておかないと、カウンセラーが潰れてしまいます。


なので、正直なところ、努力目標でいいと思っています。こんな話は努力目標で十分で、頭の片隅に残しておけば十分だと思います。


それでも、できるだけ丁寧にカウンセリングをできるように、しっかり準備をした方がいいのは間違いありません。


そして、この「丁寧さ」というものは、恐るべき力を秘めています。

なにしろ知識と経験と技術を15年磨き続けた僕と、昔の未熟だった僕とで、ホームラン率が同じなのですから。


どれだけ知識と経験と技術があっても、丁寧さに欠けるカウンセリングは、相談者さんの人生において、記憶に残ることはないでしょう。

問題解決に役立つことは大いにあると思いますが、長い人生を振り返った時に、「あのときのあのカウンセラーさんに、ありがとうと伝えたい」と思ってもらえることは、まずないと思います。


「この人はどうやら、カウンセラーとしての経験は浅いようだ。

でも、なんだかすごく一生懸命なのは伝わってくる。私の問題について、真剣に考えてくれていることだけは、よくわかる。

自分の人生で、こんなに一生懸命、一緒に考えようとしてくれた人がいるだろうか…」


そういうカウンセリングは、相談者さんの記憶に残ります。

そしてそれは、一人の人間として大事に扱われた経験であり、その経験そのものが、人生を投げやりにならずに、もう少しだけがんばってみようという気持ちを育むことがあるのです。



できることなら僕たちカウンセラーは、「ああ、あのときあのカウンセラーに相談できて良かったな~」と、長い年月が経った時に思ってもらえることが、何よりもうれしいのだと思います。

カウンセラーなんて大して儲からない仕事を選ぶタイプの人々は、そういうものではないでしょうか。


なので、努力目標でかまいません。


ほんの5分か10分、心を静める時間を持つだけで、大きく違うものです。

心の片隅で、丁寧にカウンセリングをすることの意味を忘れないでいただけると、うれしく思います。



そのうち、知識と経験と技術も身につけて、ヒットもたくさん打てるようになると、よりカウンセリングが楽しくなってくるはずですよ。



ああ、そうそう。

アラフォーになって痩せにくくなってしまい、シュークリームはやめました。

しょんぼりですよ。


悔しいのでホームラン率が変わらないのは、シュークリームのせいにしておきましょう。


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今回のポイント 

丁寧にカウンセリングすることが、一番大事。
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